ユニクロや楽天、今治タオルなど、誰もが知るブランドのデザインを手掛けてきた佐藤可士和さん。
佐藤可士和さんの武器は、ただのデザイン力ではありません。
それは「整理術」。
と言っても、机や部屋の片付けではなく、情報や価値観、仕組みを丸ごと見直す知的な整理です。
佐藤可士和さんは、見えている課題の奥に潜む“もつれ”をほどき、前提から疑い、新たな価値を発見します。
今回は、佐藤流整理術の魅力と、それが面白いアイデアを生む理由を探っていきます。
整理とは「片付け」ではなく“詰まりを取る”こと
佐藤可士和さんは、1965年東京都生まれのクリエイティブディレクターで、現在は株式会社SAMURAIの代表取締役CEO。
多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業後、博報堂に11年間勤務し、2000年に独立してSAMURAIを設立しました。
佐藤可士和さんの整理術は、家庭の収納術のように物を整然と並べることではないと言います。
佐藤可士和さんが言う整理とは、企業や社会の中に潜む“情報や価値観の詰まり”を取り除き、流れを良くすること。
例えばある企業では、各部署がバラバラに発信をしており、ブランドイメージが統一されていないケースがあります。
佐藤可士和さんはまず、全ての情報を一度テーブルに広げるように可視化するそうです。
まるで絡まった糸を一つひとつほどくように、本質的に必要な要素と、実は不要な要素を丁寧に選り分けていくのです。
この作業は時間がかかりますが、ここを飛ばすと本当の意味でのデザインは成立しません。
佐藤可士和さんにとってロゴや広告の刷新は、整理された結果として自然に生まれるもの。
だから整理術は見た目を整える以上に、“血流を通す外科手術”のような意味を持っているようです。
代表的なブランディング実績
- ユニクロ – ロゴデザイン、グローバルブランディング
- セブン-イレブン – ブランドクリエイティブディレクション
- 楽天グループ – ブランドデザイン
- 今治タオル – ブランディングにより全国的価値向上
- 国立新美術館 – シンボルマークデザイン
- TSUTAYA – ブランドデザイン
- SMAP – 音楽活動全体のトータルプロデュース(SAMURAI設立後最初の仕事) 他多数
真っ白な空間が生む無限の発想
佐藤可士和さんのオフィスに入ると、誰もがまず息を飲むそうです。
壁も天井も、棚や収納までも真っ白で、置かれているのは木目のテーブルと椅子、そして床の温もりだけ。
作品や資料は見当たらず、視界を遮るものは何もありません。
この徹底した空間づくりには理由があります。
それは、頭の中を毎回“ゼロ”に戻すため。過去の成功事例や固定観念が視覚的に残っていると、新しい発想はどうしても既存の型にはまってしまいます。
しかし白い空間は、思考に余白を生み、制限を外します。
これは、画家が新しいキャンバスに向かう瞬間に似ています。
そこには昨日の線も、先週の色も残っていない。何を描くかはその瞬間の自分次第。
この物理的な“余白の演出”が、佐藤可士和さんの整理術を根底から支えているようです。
プロダクト・空間デザイン実績
- docomo N703id – 携帯電話デザイン(100万台超のヒット)
- ふじようちえん – 園舎リニューアル建築プロデュース
- カップヌードルミュージアム – トータルプロデュース
- UNIQLO Park Yokohama Bayside – 日本初の特許登録インテリアデザイン(2020年11月)
- Kura Sushi Asakusa ROX – 日本初の特許登録インテリアデザイン(2020年11月) 他多数
「忘れる」ことで磨かれるアイデア
クリエイティブディレクター 佐藤可士和氏が「静岡茶」を世界に広めるプロジェクトの総合プロデューサーに就任。静岡県内の生産現場を視察した様子が公開されました。どこをエッジにし、どう磨き、どう伝えていくか。今後の展開から目が離せません。 pic.twitter.com/qJEjpaB0a7
— KAWAI (@kawai_design) June 30, 2025
私たちは「大事なことはすべてメモして残すべき」と思いがちですが、佐藤可士和さんはその逆を行くと言います。
「メモは一切取らない」と決めているそうです。
その理由はシンプルで、「忘れてしまうようなアイデアは、その程度の価値しかない」という考え方。
記録を重ねて情報をため込むほど、脳は不要なデータでいっぱいになり、本当に大事なひらめきが埋もれてしまいます。
佐藤可士和さんは、忘れることでアイデアをふるいにかけ、自然に残ったものだけを採用。
これは情報の“自然選別”のようなものなのかもしれません。
脳内を常に整理し、必要なときに瞬時に取り出せる状態を保つ訓練。
余計な情報を削ぎ落とすことで、残るのはシンプルかつ強力なアイデア。
まるで氷山の水面下を削って、水面上に突き出た部分だけを研ぎ澄ませていくような作業に感じます。
受 賞 歴
- 東京ADCグランプリ
- Red Dot Design Award 2024 Best of the Best
- 毎日デザイン賞
- その他多数の国内外での受賞
前提を疑うから面白くなる
佐藤可士和さんが新しいプロジェクトに向き合うとき、まず行うのは「そもそも本当にそれが必要か?」という問いだそうです。
クライアントが「ロゴを変えたい」と言ってきても、佐藤可士和さんは即座にデザイン案を作るのではなく、なぜ変える必要があるのか、その目的や背景を徹底的に掘り下げると言います。
場合によっては「変えないほうがいい」という結論になることもあるとか。
これは、既存の枠組みを前提にせず、一度ゼロ地点に戻して考える姿勢。
アートの世界でデュシャンが便器をアートにしたように、当たり前を疑うことで全く新しい価値が見えてくるのでしょう。
整理術は単なる整頓ではなく、時に“土台ごとひっくり返す”こと。
前提を疑う勇気があるからこそ、佐藤可士和さんのアイデアは既存の枠を超え、思わず人が唸るような面白さを持つのでしょう。
まとめ
佐藤可士和さんの整理術は、表面的な片付けを超えて、情報や価値の流れを根本から見直す方法のようです。
真っ白な空間で頭をリセットし、忘れることで本質を浮かび上がらせ、そして前提を疑うことで枠を超えた発想を生む。これらの積み重ねが、ユニクロや今治タオルといったブランドを世界レベルに引き上げてきました。
整理とは、不要なものを捨てるだけでなく、面白さを引き出す土台を整えることなのかもしれません。