歌手としてデビューし、女優・声優・舞台演出家としても独自の道を歩み続けてきた夏木マリさん。
デビューから50年以上が経った今も、「年齢はただの記号」という言葉どおり、常に新しい表現に挑み続けています。
中でも多くの人の記憶に残るのが、映画『千と千尋の神隠し』の湯婆婆役。
そして2026年公開の映画『ほどなく、お別れです』では、人生と死を静かに見つめる祖母役を演じ、再び注目を集めています。
この記事では、夏木マリさんの代表作とは何なのかを軸に、声優・女優・舞台という3つの視点から、その魅力を振り返っていきます。
👻国民的キャラクターとなった声の代表作『千と千尋の神隠し』
夏木マリさんの代表作として、最も多くの人に知られているのが、2001年公開のスタジオジブリ映画『千と千尋の神隠し』です。
彼女が声を担当した湯婆婆と銭婆の二役は、アニメ映画の枠を超え、日本のポップカルチャーを象徴する存在となりました。
湯婆婆は強欲で支配的、しかしどこか人間味があり、完全な悪役ではない複雑なキャラクターです。
その感情の起伏を、夏木マリさんは怒鳴り声や間の取り方、低く響く声色によって巧みに表現しています。
ただ怖いだけではなく、商売人としての計算高さや、親としての一面までもが声ににじみ出ている点が、多くの観客の印象に残りました。
一方で、双子の姉妹である銭婆は、同じ声とは思えないほど穏やかで包容力のある存在です。
声のトーンやスピードを微妙に変えることで、性格の違いを明確に演じ分けており、声優としての技術力の高さを感じさせます。
むーたんこの二役を同時に成立させたことが、夏木マリ=湯婆婆という強烈なイメージを決定づけました。
さらに注目すべきは、2022年に初演された舞台版『千と千尋の神隠し』でも、夏木マリさんが引き続き湯婆婆・銭婆を演じている点です。
アニメ版のイメージがあまりにも強い役柄でありながら、舞台という生身の表現の場で再び挑戦することを選びました。



本人は「ありがたい。自分の声で、湯婆婆の声を忘れて新たに挑戦したい」と語っており、過去の成功に安住しない姿勢がうかがえます。
同じ役でも、表現の場が変わればゼロから作り直すという考え方は、50年以上第一線で活躍してきた理由の一つなのかもしれません。
🌉人生を重ねて深みを増す女優としての代表作たち
【夏木マリさん×浜辺美波さんインタビュー】映画「ほどなく、お別れです」で祖母と孫娘を演じる夏木マリさんと浜辺美波さん。ふたりの間に流れる温かな空気感、また俳優同士のプロの絆を感じるインタビューをお届けします。https://t.co/XIxIqjVdEi
— 婦人画報 FUJINGAHO (@fujingahojp) January 24, 2026
女優としての夏木マリさんは、年齢を重ねるごとに存在感が増し、役柄そのものに「生きてきた時間」が宿るようになっていきました。
若い頃の華やかさや勢いとは異なり、近年の代表作では、言葉数が少なくても伝わる演技が際立っています。
その象徴ともいえる作品が、河瀬直美監督の映画『Vision』(2018年)です。



夏木マリさんは盲目の女性・アキを演じるため、撮影の約2週間前から奈良県吉野の山に入り、役としての生活を始めました。



動物性のものは食べずにお粥中心の食事を取り、よもぎ団子を作るために自ら山へよもぎを摘みに行くなど、役の人生を体に染み込ませるような準備を重ねています。



さらに、アキの習慣として、山道を1時間かけて歩き、お地蔵さんに花と水を供える行為を日課にしていたことも語られています。
こうした積み重ねが、スクリーンに映る佇まいや動作の一つ一つに説得力を与え、観る側に強い印象を残しました。
そして2026年公開の映画『ほどなく、お別れです』では、主人公・美空の祖母である清水花子役を担当しています。
完成報告会では、「死に様は生き様だな、とこの作品を見て思った」と語り、人生の終わり方と日々の生き方が地続きであることを示唆しました。
派手な演出ではなく、そこにいるだけで空気を変えるような存在感は、長いキャリアを経た今だからこそ生まれるものと言えそうです。
🌈ライフワークとなった舞台「印象派」という唯一無二の代表作
夏木マリさんのキャリアの中で、最も個人的で、最も象徴的な代表作が、1993年から続くコンセプチュアルアートシアター**「印象派」**です。
この舞台は、企画・構成・演出・出演のすべてを自身で手がける、極めて自由度の高い表現の場として始まりました。
40代を迎える頃、「集団で演劇を作ることからは距離を置きたい」と感じる一方で、舞台そのものは自分にとって心地よい場所であると気づいたことが、創作のきっかけだったと語られています。



「いつか観たことのある演劇をやりたくなかった」という言葉からも、既存の型に収まらない表現を求めていたことが伝わってきます。
岡本太郎さんの「芸術は判断を超えて『何だ、これは!』というものだけが本物」という言葉に影響を受け、「印象派」はストーリー性よりも感覚や空気感を重視した作品として進化していきました。
その結果、2017年にはルーヴル美術館での公演を成功させ、シビウ、アヴィニョン、エディンバラという世界三大演劇祭を制覇するまでに広がります。



夏木マリさん自身も、「今の私があるのは『印象派』で鍛えられたから」と語っており、この舞台を通して、自分に必要なものと、いらないものを見極める力を身につけていったようです。
「印象派」は単なる舞台作品ではなく、人生を整理し、自分自身を知るための装置でもあったのかもしれません。
📌まとめ
夏木マリさんの代表作は、一つに絞れるものではないのかもしれません。
『千と千尋の神隠し』の湯婆婆のように多くの人の記憶に残る役もあれば、『Vision』や『ほどなく、お別れです』のように、人生を重ねたからこそ生まれる静かな名演もあります。
そして舞台「印象派」は、夏木マリさんという表現者そのものを映し出す作品と言えそうです。
年齢やジャンルに縛られず、「今、やりたい」と思える表現だけを選び続けてきた姿勢が、これらの代表作につながっているのではないでしょうか。
これから先、どんな作品が加わっていくのかも、ゆっくり見守っていきたいですね。









